各論

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当院の治療の基本設計思想

当院で治療方針を組み立てていく上での基本的な思想を、以下に述べます。

当院で継続的に治療を受ける際には、これを御理解頂くことが重要です。
なお、この文書は随時改訂される可能性がありますので、最新のものを御覧下さい。

総 論

「こころ」は脳神経系を含めた、私たちの身体の機能の1つです。従って、こころの健康(メンタルヘルス)が損なわれた時、「カウンセリングをすれば治る」といったものではありません。「うつ病」は、しばしば、「こころの風邪」と表現されますが、実際には「脳神経系の骨折」に近い印象があります。メンタルヘルス不調からの回復を進めるためには、
①生活習慣・生活リズムの改善
②脳内情報処理(認知)の改善
③身体的健康の回復
④薬物療法
などが必要です。軽症の場合には、①②③だけで回復することもあります。
しかし軽症の一部と、中等症~重症の場合にはそれに加え、④も不可欠です。つまり、
◆就学・就労を始め、年齢相応の社会参加ができていない状態
◆食事・入浴などの生活の基本となる行動が不十分な状態
◆感情や行動の制御が自分ではできない場合
◆自分や他人に対する危険な行動が見られたり、そのような思考が続く場合
◆①②だけで改善が進まない場合
などです。
①②を進めるために、デイケアなどのリハビリテーションの利用を組み合わせます。
中等症~重症の場合には、特に積極的なリハビリテーションや薬物療法が必要です。

メンタルヘルス不調は、「ストレス」などの外的要因だけで起こるのではなく、その人の体質(遺伝子的な個性)が多かれ少なかれ関係しています。それは生活習慣病と同じです。家族・職場・関係者・治療者・社会など、周囲の誰かを「原因」として非難することは回復を阻害しやすいものです。また「周囲の誰かを攻撃したくなる感覚」自体が、メンタルヘルス不調の表れであることもしばしばです。
「元々の性格」「得意・不得意のパターン」も体質の内かもしれません。糖尿病になりやすい体質があるように、現代社会においてメンタルヘルス不調になりやすい体質があります。もちろん、それがイコール「悪い体質」ということではありません。体質を知って、回復に役立てることが重要です。それは①②に含まれる作業です。
もちろんストレスへの対処法を工夫することは、回復を目指す上で有効です。但しストレスは、人間関係や職場環境からくるものだけではありません。気候の状態、栄養バランスの崩れ、感染症、薬品の不適切使用、嗜好品(特にアルコール・タバコ・カフェイン・糖分)の摂取、ギャンブル・趣味へののめりこみ、お祭り騒ぎなどは、いずれもストレスとして体内環境・脳機能を変化させ、メンタルヘルスの悪化につながりえます。

因みに、上記の「体質」は血縁者の間で似ることがありえます。ただ、病気そのものが常に遺伝するということではありません。もちろん「突然変異」によって、親世代にはなかった体質が子ども世代で生じることも少なくありません。
また「元々の性格」そのものが、知らないうちに始まっていた症状の影響を受けていた、ということも少なくありません(例・「怒りっぽい性格」が実は、躁うつ病の症状だった)。また、不調になった「きっかけ」らしき出来事があったとしても、それ自体が、既に始まっていた病気の症状の影響でおこった出来事だった、ということもあります(例・解雇された結果、うつ病になったのではなく、うつ病の症状が出始めていたために仕事のミスが増えて解雇になった)。

どの診療科に限らず、「患者満足度が高い治療の下では、患者死亡率も高い」という結果が出ています。つまり患者さんの希望通りの治療をしていると結局、患者さんに大きなダメージを与えてしまう危険があります。当院では、患者さんのその時々の満足を主目的にせず、回復を促進する上で医学的に妥当かどうかを念頭に、治療方針を選択していきます。

診断書の内容は、回復を促進する観点から医療機関が決めます。患者さんと「談合」して内容を決めることは、結果として診断書の客観的信頼性を損ない、患者さんの不利益になります。従って、患者さんの希望通りの診断書を発行できるとは限りません。また、診断書の種類によっては、公的な病院へ御相談頂くことがありえます。

治療を進めていく間には、患者さん側・治療者側双方にヒューマンエラーがありえます。
それを最小限にするために、患者さんにも御協力をお願いします。以下に例を挙げます
◇受診時にお名前を伝えて頂く。
◇薬の飲み忘れを防ぐために、御自分でチェック表を作って頂く。
◇次回予約までの日数と、薬の処方日数が合っているか確かめて頂く。
◇思っていたより薬が増えたり減ったり変わったりしているように感じたら、薬局に問い合わせて頂く。
◇他院にかかる時には、当院受診の事実とその薬の内容を他院に伝えて頂く。
◇他院薬・市販薬を飲む前には、薬局に問い合わせて頂く。
などなど

各 論
生活習慣・生活リズムの改善
メンタルヘルスの改善には、脳神経系を含めた身体の状態を整えることが不可欠です。そのため、次のようなことを実践してみて下さい。
◇毎朝の起床時刻を一定にし、起床後十分に日光を浴びる。
◇ゆっくり呼吸を心がける。
◇1日30分程度の運動を取り入れる(例・息が切れない程度の速足歩き)。
◇食事では、魚・野菜を十分にとる。糖分・脂肪の取りすぎを避ける。
◇タバコ・カフェイン・アルコールはやめる。
などなど

脳内情報処理の改善
脳内の情報処理がうまくいかなくなると、メンタルヘルス不調が起きやすくなったり、治りにくくなったりします。そのため、治療・リハビリテーションを一環として、次のような取り組みが必要です。
◇ある物事について、そのマイナス面だけでなく、プラス面も見出だす練習をする。
◇ある出来事を、マイナスに解釈するだけでなく、プラスに解釈する練習をする。
◇円滑に仕事や生活を進めることのできる行動パターンを工夫する。
◇注意力や記憶力を高める工夫と練習をする。
などなど

身体的健康の回復
脳神経系以外の身体の病気も、体内環境を悪化させることにより、脳神経系の働きを邪魔します。そのことによって、メンタルヘルス不調が起きやすくなり、また回復しにくくなります。よって、全身的な健康状態の改善は、メンタルヘルス改善のためにも必要です。
◇生活習慣を見直すこと(上述)
◇高血糖・低血糖、肥満・痩せすぎの改善
◇各種身体疾患の治療
などなど

薬物療法
薬は、処方箋通りに服用して下さい。

当クリニックではなるべく薬の種類は少なくすることを目指します。 (単剤化処方)
但し、心療内科・精神科領域には色々な疾患があり、なおかつ疾患と疾患が重なり合っていることもしばしばあります。そのため、1人の患者さんに、いくつかの種類の薬を併用することも少なくありません。同様に、一番目立っている症状ではなく、その背景にある、より根本的な疾患をターゲットにして薬を処方するため、患者さんが想定していたのとは違う薬が出ることもあります(例・「不眠」の症状があっても、「眠れさえすれば良い」と対症療法的に睡眠薬を出すのではなく、その背景にある躁うつ病などの治療を目指して気分安定薬・抗精神病薬を処方する)。
そのため場合によっては敢えて、健康保険上の主たる診断名以外の疾患の薬を応用・併用することがあります(保険適応外処方)。

見かけの症状の表れ方は似ていても、根本にある疾患が異なるケースがあります。従って、似た症状の患者さん達に、異なる種類の薬を処方することもしばしばあります(例・抑うつ症状がみられても、抗うつ薬を出すとは限らない)。

依存性のある薬(特に睡眠薬、抗不安薬)は、基本的に使用しないか、使用するとしても最小限・最短期間にします。「言うとおりに睡眠薬・抗不安薬を出さない医者は許せない!」「減らされるなんてもっての外!」と感じるならば、すでに薬物依存になっている可能性が非常に高いと考えて下さい。

「寝れない時」「不安な時」などの頓服薬には
◇ついついたくさん飲んでしまう。
◇「自分は頓服を持ってないとダメな人間」という感覚を持たせる。
といった大きなマイナス面がありますので、出さないようにしていきます。代替治療薬として漢方薬を活用します。

各薬物の「エビデンス」(効果についての厳密な研究の結果)を踏まえて処方しますが、エビデンスだけに基づいて処方をするわけではありません。多様な患者さんに当てはまるエビデンスなどは存在しないため、患者さん一人ひとりの個性をふまえ、医師の知識と臨床経験に基づく個別の判断が欠かせません。

あらゆる薬(市販薬や漢方薬を含めて)には、副作用がありえます。比較的多いのは次のようなものです。

眠気 だるさ ふらつき 手のふるえ
肝臓・腎臓の数字が上がる
じんましん  むかつき・胃のもたれ
抜ける髪の数が増える
甲状腺の働きが下がる  など

但しこれらと同様の現象は、処方薬の影響だけでなく、メンタルヘルス不調そのものや、他の身体的不調によって生じることもしばしばあるので、副作用と決めつけないことが重要です。
さらに稀ながら以下のような、より重症な副作用もありえます。
悪性症候群(筋肉が壊れて体がこわばり、体温も上がる)
セロトニン症候群(高体温や意識障害が生じる)
目・粘膜・皮膚がただれるような重症じんましん
低ナトリウム血症 重症の肝障害・腎障害 白血球や赤血球が大きく減る など
しかし、ありえるこれらのデメリットよりも、治療効果のメリットの方が大きいと考えられるのであれば敢えて処方することもあります。適正な薬剤処方のために、血液検査などを行うことがあります。
薬と体質によっては、比較的軽度な副作用が出て初めて、ようやく効果を示す場合があります。「副作用ではないか」と感じても、すぐに薬を自己判断で中止したりしないで下さい。疑問な点は、当院にお問合せ下さい。

お わ り に
医療は、人生の問題を全て解決する「魔法の杖」「打ち出の小槌」ではありません。
現在の医学には限界があります。治療を始めても、全ての場合において期待通りのスピードで改善が進むとは言えません。そのため、患者さん・御家族・御関係者の側の工夫・御理解・御協力が不可欠です。どうぞよろしくお願いします。

以上